医師二人が名乗る。
いきなり病状説明から入らないのも、待機していた家族などを落ち着かせるためでもあるのだろう。
「大動脈解離です」
心タンポナーゼ、~~型の・・・と医学用語が出てくる。必死でメモをとる。
「よく芸能人とかで居ますね。働き盛りの人にも多いんですが・・・。
手術はどうしますか?心臓を身体から取り出しての手術となります。
お母さまのようなご高齢の方の場合は、助かったとしてもかなりの確率で脳などに重い障害が残ります。
脳に酸素が行ってない時間が長かったので。
また手術中にお亡くなりになることも充分考えられるケースです」
父と母、両方の面倒を看る事はできない・・・
残酷なようだが、離れて暮らしている一人っ子の私の脳裏に最初によぎったのはこんなことだった。
この病院の脳外科病棟には、まだ意識が戻らない父が居るのだ。
精神面、金銭面、私の生活・・・私はどうすれば・・・
こんなとき、仲の良いきょうだいが一人でも居れば・・・
また、お世話する人を雇ったり、両親が高級な施設などに入居できる財産があれば・・・
「お母さん、楽にしてあげよう。お母さんは何でも出来る人だったから障害が残るなんて可哀そうだよ・・・」
私は、涙とOさんの言葉を心に流し込むしかなかった。
手術はしないことにした。
心がえぐられるような決断だったが、ここで私は「ある事」にハッとさせられたのである。